Next Field Next Field 03

03 進化する記者

朝日新聞社の記者の仕事は、取材した情報を紙の新聞に掲載するだけではありません。「朝日新聞デジタル」や若者向けのニュースサイト「withnews」など、発信の方法は広がっています。withnewsで記事を書き、記事を読んだ人数を表すユニークユーザー(UU)数が1億7千万を超えたデジタル編集部の若松真平さんに、今の仕事について聞きました。

withnewsの仕事とは?

若松:withnewsは、新聞社がつくるコンテンツを若い人にも届けたいと2014年にスタートしました。そのときから、ネット上で注目を集めている話題を深掘りして記事を書いています。記事の見出し近くに表示されている数字がUUで、実際に記事を読んだ人数を示しています。これまでに私が書いた記事を、累計で1億7千万人以上が読んでくださったことになります。

 特に印象に残っている記事は、「『おじいちゃんのノート』注文殺到 孫のツイッター、奇跡生んだ偶然」です。

『おじいちゃんのノート』注文殺到 孫のツイッター、奇跡生んだ偶然

 小さな印刷所が作ったノートを紹介するツイートを見つけたことから取材を始めました。見開いたときに水平に開くノートで、特許を取ったものの売れない、という内容。投稿したのは従業員の孫娘です。さっそく取材に行って記事にすると、たくさんの人に読まれました。

 しばらくすると、以前取材でお世話になった大手文具メーカーから「ぜひうちにお手伝いさせていただきたいので、印刷所の社長をご紹介いただけませんか」と連絡が来ました。記事中にあった「この技術を受け継いでくれる会社が現れて、一人でも多くの人にノートを使ってもらえたら、というのが私の願いです」という社長の言葉に目がとまって、電話をくれたそうです。

 無事に両社のコラボ商品が発売され、それらの動きも記事にしていきました。

 最初の「注文殺到」の記事のUUは150万超になりました。Webで記事を配信すると、どれくらい読まれたのかが数字でわかります。読者の反応がダイレクトに届くところがおもしろく、やりがいがあります。

“おじいちゃんの方眼ノート”量産化 作るのは「ジャポニカ」の会社

町工場の『奇跡のノート』、大手が量産化して発売 社長の夢が現実に

おじいちゃんがツイッター開設! 「方眼ノート」解説が可愛いと評判

新聞記者、紙面編集、デジタルを経て変わったことは?

若松:私は2002年に入社して、前橋総局と佐賀総局で新聞記者として働きました。その後、編集センターで紙の新聞の編集者として、記者が書いた原稿に見出しをつけ、レイアウトをする仕事を担当。デジタル編集部に異動して、朝日新聞デジタルの編成もしました。

 これまでの新聞記者の仕事は、取材をして原稿を書くことでした。編集者が見出しを考えてレイアウトをし、工場で印刷、販売店が読者に届ける分業です。

 withnewsでは、原稿を書くことに加えて、見出しやレイアウト、配信まで自分で手がけることができるので、読者に自分で直接届ける感覚が強くなりました。どんな人に、どういう形で、どのタイミングで届けるのか。読んでもらうために必要な要素は何か。どのように書いたら読まれるか。これらを、取材する段階でイメージしておくことが大切です。

 読まれる記事には読ませる工夫が必ずあります。その一つが見出しです。大げさにせずに、事実を伝えつつ「読みたい」とクリックしてもらえる見出しをつけられるか、もポイントです。編集者としての発想が生きているので、経験してよかったと思っています。

 記事を配信した後は、どのくらい読まれたかがデータでわかります。出した記事が全部ヒットするわけではありません。予想していたほど読んでもらえなかったときは、何が良くなかったのか分析します。

 SNSのコメントを参考にして「次はこう変えて書いてみよう」と考えたり、その後の状況を追加して続報を書いたりできます。1回失敗したから終わり、ではなく、随時アップデートできるところもデジタルのおもしろさです。
 

個人で発信できる今、新聞記者や新聞社の強みとは

若松:今は個人でもSNSなどで発信できる時代ですが、新聞記者の強みは「取材力」だと思います。新聞社に入社して仕事をするなかで、取材の基本を学ぶことができます。

 取材力や原稿の書き方を身につけるための蓄積が新聞社にはあります。ネット向きの書き方は、その後でも学ぶことができます。また、社会人1年目でも、新聞社の名刺を持って多くの人に話を聞くことができ、人脈も広がります。

新聞業界の厳しい時代、どう見ている?

若松:新聞の発行部数が減るなど、新聞業界は厳しい時代です。でも、厳しいからこそ新しいことができるチャンスだと思います。ずっと業績が良かったら、「新聞とはこういうものだ」と変わらず、同じ価値観で仕事をし続けていたでしょう。それが、どうしていけばよいか考えていかなければいけない状況になりました。

 「こういうことをやりたい」と言うと、「どうぞ、やってみて」と言ってくれる環境が社内にはあります。そうすると、自分がしっかりしないと、という意識が生まれます。やらされている仕事でなく、自分がやりたい仕事だから結果も出したいし責任も持ちたい、というようなサイクルができてきます。だから、前向きにとらえています。

これからの記者に求められるものは?

若松:「求められるものが決まっていない」というのが今の時代ではないでしょうか。何が求められているのかを常に自分で考えなければいけません。

記者の仕事をする上で「知りたい」「伝えたい」という熱意はどんな場面でも必要です。でも、求められるものは取材する相手やテーマ、読者が変われば、異なってきます。その都度、自分はいま何を求められているのかを見極める力が一番必要なのではないでしょうか。
 

Profile

若松 真平(わかまつ・しんぺい)
デジタル編集部デジタル委員。1978年生まれ、鹿児島県出身。2002年に入社して前橋・佐賀の両総局、編集センターを経てデジタル編集部に。withnewsで配信した記事の累計ユニークユーザーは1億7千万を超え、現在も更新中。

Profile 若松 真平(わかまつ・しんぺい)

PAGETOP