Designers' work 進化する報道Ⅳ デザイナーの仕事

ニュースの表現が広がっていることを、進化する報道Ⅰ 朝日新聞デジタルのページで紹介しました。ビジュアル表現の大きな部分を担う報道デザイナーの仕事に迫ります。

情報をわかりやすく伝え、豊かな読者体験を提供

報道デザイナーの役割は、情報をわかりやすく、魅力的に伝えることです。インフォグラフィックスを中心に、イラストレーション、ロゴタイプ、エディトリアルといったデザインで朝日新聞のビジュアルコミュニケーションを支えています。

新聞紙面は、大きなサイズを生かしてダイナミックに。時には雑誌を思わせるようなサプライズを。デジタル版は、インタラクティブ、データビジュアライズ、動画、アニメーションなど幅広い表現を。新しい技術とアイデアで、豊かな読者体験を提供します。

デザイン部では、デザイナーとフロントエンドエンジニアが一緒に仕事をしています。さらに、記者をはじめ社内のさまざまなプロフェッショナルと連携し、140年の情報のアーカイブも生かしながらコンテンツを生み出しています。

タイポグラフィ年鑑2024、2部門でベストワーク賞

朝日新聞のビジュアルコンテンツは、国内外で高く評価されています。優れたデザインをたたえる日本タイポグラフィ年鑑2024では、二つの部門で最高賞にあたる「ベストワーク賞」、一つの部門で「審査委員賞」を受賞しました。

インフォグラフィック部門でベストワーク賞に選ばれたのは、2023年2月24日の朝刊特設面「侵攻1年 耐えるウクライナ ロシアの『戦争』ぶれる大義」です。

見開き紙面の左側にウクライナのゼレンスキー大統領と空爆を受けた建物、右側にロシアのプーチン大統領と無傷のクレムリンを配置。侵攻から1年間のできごと、避難民の動きや国別の支援額の多寡などを一目でわかるようにビジュアル化しました。

デザインを担当した加藤啓太郎さんは、企画の早い段階から取材・編集のチームに加わりました。「すでに取材で得られている情報量はロシア側が圧倒的に多かったのですが、イーブンに見せたいという思いがありました。こちらから『こういうデータもありますか』と求めながらつくり込んでいきました」と振り返ります。

加藤 啓太郎(かとう・けいたろう) デザイナーとして2007年に入社。2021年からデジタル機動報道部、23年からデジタル企画報道部員も兼務。Illustrator、Photoshop、QGIS、Flourish、Pythonなどを駆使したデータビジュアライズにも力を入れている。

被害者の足取りを追体験

2023年5月19日配信の「忽然 吉川友梨さんを捜しています」は、「オンスクリーン部門」でベストワーク賞を受けました。9歳の少女が行方不明になった事件から20年の機につくったウェブのコンテンツです。時系列の目撃証言を航空写真に落とし込み、ユーザーのスクロールによって足取りを追うように画面が動きます(言葉で伝えるのは難しいので、ぜひご覧になってください)。その距離感、位置関係、経緯が追体験できるようなつくりになっています。

両親や友人たちは手がかりを捜してチラシを配り続け、メディアはその様子をニュースとして報じてきました。でも、この事件に限らず、多くの人が心にとどめ続けるのは難しいものです。大阪社会部の記者たちは、初動捜査のあり方を問い直したいという思いも強く持っていました。

報じる事実関係に「新しい情報」がなくても、取材の積み重ねを「新しい方法」で伝えることができるのではないか。実は、このコンテンツのデザインも加藤さんが手がけました。

過去に例がない挑戦のヒントは、情報収集のために見ていた海外のサイトにありました。名画を紹介するインタラクティブなサイトで、かねて「事件の解説にこの手法が使えるかもしれない」と考えていたといいます。「最後までスクロールしてもらうことめざし、盛り込みがちになってしまう情報をとことん絞り込みました。大事なニュースをどう届ければよいかを模索している中でこのような試みが評価されてびっくりしたし、励みになります」

伝えたい「軸」はなにか

音楽家の坂本龍一さんが亡くなってから約2か月後に配信した「坂本龍一が残した言葉 1952-2023」は、オンスクリーン部門で審査委員賞に選ばれました。スクロールしていくと、「平和」「社会」「人間」について語った過去のインタビューの言葉が縦書きで流れ、画像のクリックで記事を読むこともできます。

デザイン部の原有希さんは、デスクとして、「忽然」「坂本龍一が残した言葉」の両方にかかわりました。コンテンツづくりにあたっては、「軸」を意識しているといいます。「『写真がたくさんある』『どこどこでルポをした』『3DCGをつくった』というのは軸ではなくて、なにを、どう伝えたいのかという『軸』がないといけない。そのためにはどんな表現が最もふさわしいのかを、一線で取材する記者やフォトグラファー、Webディレクター、UIデザイナーと一緒に考えています」

購読者に毎日、直接届けられる新聞紙面と違い、ウェブのコンテンツは「どうすれば見てもらえるか」を戦略的に考える必要があります。難しい課題ではありますが、原さんは「朝日新聞のデザイン部はグラフィックデザイナーとフロントエンドエンジニアが密にコミュニケーションをとれる態勢が整い、創造的な仕事をできる環境があります」と手ごたえを感じています。

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