Podcast 進化する報道Ⅲ ポッドキャスト
朝日新聞ポッドキャストは2020年5月に朝日新聞デジタルで、3か月後には主要なポッドキャストサービスで配信をスタートしました。それから約3年で、5000万ダウンロードを達成。チーフパーソナリティーの神田大介さんと、プランニングディレクターの中島晋也さんに、活字メディアの朝日新聞が音声配信に力を入れる理由を聞きました。
20~30代リスナーが6割
神田さんは朝日新聞ポッドキャストの開始当初から、メインMCを務めています。朝日新聞ポッドキャストでは、記者やゲストと時事問題を語り合う「ニュースの現場から」、新聞を含むメディアの将来について語る「MEDIA TALK」、自動音声によるニュース読み上げ「朝日新聞アルキキ」などの番組を毎日配信しています。リスナーは20~30代が約6割。ポッドキャストは彼らに「新聞という世界観に触れてもらうためのツール」と考えています。
テヘラン支局長として中東で取材をした神田さんは、2017年に帰国。デジタルディレクターとして、ウェブ上の国際記事を読まれるコンテンツにすることに取り組みました。ある時、同僚の特派員から海外取材の裏話を聞いたインタビュー記事を配信したところ、それを見た社内の幹部から「ポッドキャストをやってくれ」と頼まれました。
報道は「伝えること」 音声はそのツール
2020年4月、新聞のレイアウトや記事のウェブ配信を担当するコンテンツ編成本部に異動し、音声チームを立ち上げました。記事をそのまま読み上げても音声では伝わりにくいと考え、悩んだ末に「自分がMCとなり、記者と語り合う番組にしよう」と決めたそうです。
学生時代からラジオを聞くのは好きだけれど、音声メディアに特別な思い入れがあるわけではありませんでした。「思い描いていた記者像とは違う仕事。特派員になりたくて頑張ったら、なぜかポッドキャストをつくっていた」。しかし、根底にあるのはジャーナリズムが危機にあるという強い思いです。「報道の使命は書くことだけじゃなく、伝えること。文字も音声もそのためのツールです」
このインタビューの様子も、ポッドキャストの番組として配信。
番組に登場するのは、記者だけではありません。社内でAIを開発するシステムエンジニア、印刷技術のベテラン、新規事業の担当者なども登場します。「記者かどうかは関係なく、専門分野を持っている人は社内にはたくさんいる」といい、「メディアが批判されることも多いが、実際にはまじめに仕事をしている人たちばかり。肉声を通じて、朝日新聞の社員・記者と世間との距離を近づけたい」と訴えています。
国際問題や政治家へのインタビュー、女性の社会進出、コロナ下の暮らし――。ポッドキャストのトークで取り上げるテーマは幅広く、「難しい問題ですねぇ」と結論が出ない場合もあります。「価値判断は時間をかける必要がある。『記者も悩んでいる。あなたも一緒に悩もうぜ』と呼びかけています」
就職を検討している人へのメッセージを聞くと、「新聞社の仕事は、行って、聞いて、書く、という原始的な作業で、インターネットにも出てこないような新しい情報を探し出すこと。仕事のおもしろさは私が太鼓判を押します。ぜひ門をたたいてください」と語ってくれました。
神田 大介(かんだ・だいすけ) 愛知県出身。2000年に入社し、記者として宇都宮総局、金沢総局、名古屋報道センター、テヘラン支局長を経験。2020年から編集局コンテンツ編成本部の音声ディレクターとして、「朝日新聞ポッドキャスト」のチーフパーソナリティを務めている。
広告の市場拡大
メディア事業本部プランニング3部でプランニングディレクターを務める中島晋也さんは、ポッドキャストに入れる広告などのビジネス面を担当しています。
現在のビジネスモデルは、番組内で流れる音声広告です。これまでにNHKラジオ、Adobe、リコー、長野県飯綱町やAmazon、Spotifyなどが番組に音声広告を出しました。国内にはまだ「ポッドキャストに広告を出そう」という企業が多くないため、朝日新聞の営業担当者たちは「ウェブサイトや新聞の広告と組み合わせてもらおう」と売り込んでいるそうです。
国内のポッドキャストで広告が入っている番組は当初は少なく、朝日新聞は先進的な事例です。米国ニューヨークタイムズのポッドキャストは2020年に約40億円の広告収入があったそうで、国内の音声広告は2020年の約16億円から、2025年には420億円の市場に成長すると言われています。「ポッドキャストが盛り上がれば、広告を出す企業も増える。ライバルも増えてほしい」と期待しています。
今の朝日新聞社は「新しい提案が通りやすくなっている」と感じているそうです。「自分がゼロから作りたい、会社でやることを提案したい、という意欲がある人に興味を持ってもらいたい」と呼びかけています。(聞き手・矢吹孝文 肩書は取材当時)
中島 晋也(なかじま・しんや) 東京都出身。2004年に入社し、東京や福岡で広告営業、新規事業開発を担当。総合プロデュース室(当時)で合成音声によるニュース読み上げサービス「朝日新聞アルキキ」の責任者になって以降、一貫して音声ビジネスの可能性を模索する。朝日新聞ポッドキャストには検討段階から関わり、ビジネス面の責任者を務める。
採用チームも出演!
かつて朝日新聞ポッドキャストで番組を持っていた菅澤百恵さんが、人事部採用チームのメンバーとなって登場。採用活動の舞台裏を語りました。2024年5月収録。
國米あなんださん、國頭真理子さんが、MC堀江麻友さんとともに就活の思い出などを振り返りつつ、学生のみなさんへの負担軽減の取り組みを紹介します。2023年8月収録。